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COLUMN

コラム

2025.05.24
ヤングケアラーとは?概要や抱えている問題の解決策と支援について解説

近年、ヤングケアラーの存在が注目されるようになりました。ヤングケアラーには、家族や社会など、現代ならではの特徴が大きく関わっています。この記事ではヤングケアラーについて、抱えている問題やその原因、支援や解決策について解説します。

ヤングケアラーとは?概要や抱えている問題の解決策と支援について解説

ヤングケアラーとは

ヤングケアラーとは、日常的に家族の世話や家事などを行っている子どものことをいいます。サポートが必要な状況にもかかわらず、支援が行き届いていないヤングケアラーも多く、社会問題のひとつです。ここでは、ヤングケアラーの特徴や、現状について解説します。

ヤングケアラーの特徴

ヤングケアラーと呼ばれる子どもは、本来は大人が行うはずのケアや家事を担っていることが特徴です。
年齢が離れた幼い兄弟姉妹の面倒を見ることや、家事をすることは、特別なことではないと思われるかもしれません。しかし、ヤングケアラーが問題なのは、「お手伝い」として行っているのではなく、大人のように「自分の役割として担っている」ためです。ケアが必要な家族がいるヤングケアラーは、毎日のようにケアを余儀なくされているケースが珍しくありません。

ヤングケアラーの現状について

日本でのヤングケアラーの現状がどのようなものなのか、厚生労働省が公表している調査結果をもとに紹介します。2020年(令和2年)と2021年(令和3年)の2回に分けて、小学6年生・中学2年生・高校2年生・大学3年生を対象に調査が行われました。

その結果、ヤングケアラーの割合は以下のとおりです。
小学6年生:6.5%
中学2年生:5.7%
高校2年生:4.1%
大学3年生:6.2%

ケアをする対象は、小学生から高校生までは兄弟姉妹の割合が高く、大学生は母親が多いことがわかっています。
ケアのために犠牲になっていることは、小学生から大学生まで「自分の時間」と回答しています。
参考:厚生労働省「児童福祉法改正及びヤングケアラー支援について」

ヤングケアラーが直面する問題

ヤングケアラーとなることで、どのような問題にぶつかるのでしょうか。
日常生活から社会との関わりについて、また、将来への影響に関することについても解説します。

学業への影響

ヤングケアラーの多くは、学業の機会をケアの時間として犠牲にしています。
本来は学業に充てるはずの時間をケアに奪われているため、将来の可能性や選択肢の幅が狭められてしまうことが大きな問題です。
学業への影響は、勉強時間が少なくなるだけではなく、学校で欠席や遅刻が増える傾向にあり、交友関係にも影響を及ぼし、疎遠になってしまうことも懸念されます。

日常生活への影響

ヤングケアラーは家族のケアに時間をとられるため、友人たちと過ごす時間が制限されがちです。
友人たちと遊ぶ時間が激減するだけでなく、社会性を養う機会を失い、発達にも影響が出ることがあります。

家庭の状況や、ヤングケアラーであることを周囲に知られたくない場合には、意図的に交流を避けるケースも見られます。
友人たちから孤立するだけでなく、社会からも孤立するなど、日常生活への影響も問題です。

進学や就職への影響

家族のケアに時間を取られるヤングケアラーは、自分の興味や能力を、自分で狭めてしまうことがあります。行動範囲の狭さが視野の狭さにつながり、十分に挑戦できる範囲の進学や就職も、自分には無理だと考えて、諦めてしまうのです。家族のケアに時間を取られ、自分の活動が制限されているため、就職試験の面接でもうまくアピールできずに失敗につながってしまいます。

健康への影響

家事など家族の世話に追われる生活は、健康にも影響を及ぼしかねません。食事をしっかり摂れなかったり、睡眠時間が削られたり、生活が乱れやすいです。また、高齢者の介護などは、腰痛などの身体症状に悩まされるヤングケアラーが少なくありません。
過酷な生活は、身体だけでなく精神にも影響するケースがあります。

自己認識の影響

多くのヤングケアラーは、自分がヤングケアラーだということを認識していません。なぜなら、自分が置かれている環境は、「普通」の状態だと認識しているためです。普通という認識は、さまざまな支援につながりにくくなり、自分からSOSを発信することもありません。そのため、学業や健康、日常生活などへ及ぼすさまざまな影響が、解決することなく長期化してしまいます。

ヤングケアラーとなる原因

子どもたちがヤングケアラーになってしまうのは、何が原因なのでしょうか。原因について解説します。

家族構成

近年の核家族化と共働きの増加は、子どもがヤングケアラーになりやすい環境です。忙しい両親は家事に手が回らず、子どもが家事を担当せざるを得ない状況が多く見られます。ひとり親の増加も、ヤングケアラーとなる原因のひとつです。共働きと同じように、家庭内での人手不足を、子どもがヤングケアラーとなることで何とか生活が回っているのです。

家族の介護が必要になったときの支援がない

介護保険制度ができ、さまざまな介護サービスが受けられるようになりました。ところが、介護業界の人手不足により、家族がいる場合にはサービスの利用に制約があり、家族に介護が求められています。日本では、介護される高齢者に対する支援は手厚いです。
しかし、高齢者の家族に対しては支援策がなく、置き去りになっています。介護のために、家族が仕事や学業を諦めなければならない状況が、至る所で起きているのです。

社会のヤングケアラーに対する認知度が低い

ヤングケアラーになる原因のひとつが、認知度の低さにあります。ヤングケアラーが誰かに相談しても、相談された相手が「ヤングケアラー」という問題を知っていなければ、助ける手を差し伸べることにつながりません。ヤングケアラーの認識がなければ、親のお手伝いをしているだけと考えてしまうでしょう。

ヤングケアラーの支援

しかし、ヤングケアラーに対して何も対策されていないわけではなく、実際にはさまざまな支援が行われています。ヤングケアラーへの支援について紹介します。

法制度など国の政策

国がヤングケアラーの調査を行い、実態を把握するようになりました。今後は法制度など国の政策として進められることが期待されます。早期発見や相談支援など、さまざまな支援が取り組みとして進められています。しかし、法律で定められているわけではないため、強制力がありません。国が行っているのは、まだまだ自治体へのサポートのため、自治体が動き始めることが解決へのカギとなるでしょう。

早期発見

ヤングケアラーだということを、本人や親が自覚していないケースや、自覚していても周囲に知られないように隠す傾向があります。
ヤングケアラーを早期発見し、支援へとつなげることが大切です。国は早期発見に向けて、教育機関や医療・福祉関係者、子ども食堂などへ、ヤングケアラーの認知度を上げるための研修を行っています。

相談支援

ヤングケアラーの多くが、誰にも相談したことがないという実態が明らかになっています。そのため、SNSなどを活用し、オンラインで気軽に相談ができる環境の整備が検討されています。

家事育児支援

ヤングケアラーがケアをしている家族は、兄弟姉妹がもっとも多いことがわかっています。また、ひとり親の家庭のヤングケアラーは、送迎や家事など、より負担が多くなっているのです。このような背景を踏まえて、家庭での家事や育児の支援の実現に向け、検討が進められているようです。

教育機関との連携

文部科学省は2021年(令和3年)3月より、厚生労働省との連携プロジェクトチームを設置しました。
教育機関などと連携し、 適切な支援につなげることをめざしています。具体的な支援としては、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーの配置が、今後の目標として挙げられています。

支援するにあたり注意すること

ヤングケアラーの支援では、注意しなければならないことがあります。家庭内のプライベートな問題のため、相談を聞く際には他の人に聞かれないための配慮が必要です。子どもが気軽に相談できる環境も大切で、いかにも聴取しているといった雰囲気では、緊張や警戒をしてしまいますので、雑談の中で聞き取るような気遣いが大切です。子ども自身がヤングケアラーである認識がない場合、子どもにとって「ケアをする生活」が日常生活となっています。つまり、子どもにとっては当たり前の生活なので、聞き方に工夫が必要です。また、一度にすべてを聞き出そうとするのではなく、子どもが心を開いて相談しやすい関係性の構築が大切です。

海外で行われている支援

世界でもヤングケアラーに対する支援が進んでいるのがイギリスで、1980年代には既に社会問題として認識されていたようです。
法律の制定も行われ、2014年に「2014年家族と子どもに関わる法律」と「2014年ケア法」が制定されました。公的機関と民間の両方で支援が行われていることも、イギリスならではの大きな特徴です。教育機関との連携など、子どもたちが相談しやすい環境が整っています。

ヤングケアラーの解決策

ヤングケアラー自身から相談をすることが難しいため、どのような解決策があるのか紹介します。

ヤングケアラー支援の重要性を理解する

ヤングケアラーが家庭内で担っているケアは、家族で解決すべき問題と考えられてきました。そのため、身内以外に相談することのハードルが高いだけでなく、具体的な支援が行われていないことも解決を難しくしています。近年ではヤングケアラーが社会問題となってきていることから、支援の重要性についても周知され始めています。ヤングケアラーの解決には、まずは支援の大切さを理解することがポイントです。

ヤングケアラーからのSOSをキャッチする

ヤングケアラーはデリケートな問題のため、家庭内で隠しやすく、外部へSOSが出にくいことが解決を難しくしている要因でもあります。また、せっかくSOSを発信しても、受け取る側に「ヤングケアラー」の認識がなければ、SOSをキャッチすることができません。ヤングケアラーが相談しやすい場所をつくることも大切ですが、身近な人へSOSを出したときに、キャッチできる「ヤングケアラーへの認識」が大切です。

自治体による支援体制の広がり

国や各自治体では、ヤングケアラーの認知度を高めて支援に結び付けるために、さまざまな取り組みが進められています。たとえば、教育や医療、介護の現場と連携し、早期の発見や適切な支援を行うための研修が行われています。支援センターなど相談窓口を設置している自治体もあり、ヤングケアラーへの支援は、少しずつですが確実に広がり始めているといえるでしょう。

交通遺児育英会におけるヤングケアラーへの取り組み

交通遺児育英会では奨学金で経済的な支援をするだけでなく、学生生活のサポートにも力を入れています。2024年3月に行った調査によると、当会の奨学生のうち15.8%がヤングケアラーの可能性があると判明しました。また、ヤングケアラーであることを「学校の先生や職員に相談したことがない」と回答した高校生の割合は約8割と、周囲からの支援の不足が浮き彫りとなりました。この調査結果を踏まえて、交通遺児育英会ではヤングケアラーに該当すると思われる奨学生と個人面談するなど、支援を進めています。

まとめ

ヤングケアラーについて、どのような問題を抱えているのか、原因や解決策について解説しました。ヤングケアラーの解決には、ヤングケアラーになる原因を知ることが大切です。核家族化やひとり親の増加、共働き世帯の増加が原因となっているため、早期に対策を立てなければ、ヤングケアラーは今後ますます増えていくことが考えられます。身近にヤングケアラーと思われる子どもがいる場合、どのようなことに困っているのかを理解することが解決へとつながります。どのような支援があり、どうすれば支援につながるのかを伝えることができれば、解決への一歩を踏み出せます。

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